ゆったん@したっぱ薬剤師

病院薬剤師の日々の戦いについてまとめています。

下痢に対して適応のある薬

トランコロンを処方したいんですけど、院内にないみたいで。代替薬ってありますか?」

研修医の先生から電話がかかってきました。さてどうしましょう。

そもそもトランコロンってなんだっけ

名前は知っているけど、院内にないので、パッとわかったのは「排便コントロールの薬だったな…」だけでした。添付文書には以下のように記載があります。

一般名:メペンゾラート
効能効果:過敏大腸症
薬効薬理:ムスカリン受容体遮断薬で、副交感神経興奮による反応を抑制することにより様々な作用を現す

 

抗コリン薬とは

アセチルコリン受容体を阻害する薬の総称です。

ムスカリンアセチルコリン受容体を遮断する抗ムスカリン薬と、ニコチン性アセチルコリン受容体を遮断するニコチン受容体遮断薬に分類されます。

副交感神経を遮断することで、気管支平滑筋の弛緩(=気管支拡張)、消化液の分泌抑制や消化管平滑筋弛緩(=蠕動運動抑制)、排尿筋弛緩(=排尿困難)など、さまざまな作用を現します。

 

何に対しての処方なのか

電話を受けながら、医師記録をざっと流し読みします。過敏性腸症候群との記載はありません。読みながら先生の相談を聞いていきます。

 

研修医の先生「フェントステープ(鎮痛薬)による下痢に対して出ているのかと思いますが…」

「フェントステープは基本的には腸管運動を抑制する方向に働きますので、便秘がちになる患者さんがほとんどです」

 

そんなわけないでしょ、とは言わずに丁寧に説明します。研修医の先生はその名の通り、研修中の先生ですから、薬のことを教えるのは私たち薬剤師の役割でもあります(最終的な判断や処方にはもちろん、上級医がついています)。

 

どうやら患者さんは腫瘍内科でFOLFIRINOX(フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチンを使用する化学療法)を受けているようです。

「イリノテカンによる下痢に対しての処方ではないでしょうか」

 

私の提案

イリノテカンはコリン系の副作用(下痢、流涙、発汗など)が出ることが知られています。それに対してブスコパン等の抗コリン薬を使用することがあります。

カルテをさかのぼってみると、腫瘍内科の先生が下痢に対してトランコロンを処方したことがわかりました。

 

「残念ながら院内では採用していない薬ですので処方できません。本日はロペラミド等の別の薬剤で対応して、後日に自宅の残薬を持参してもらうのはどうでしょうか」

研修医の先生「そうですか、わかりました。確かにもともとロペラミドも処方されていたようなので、今日はそれを使ってもらうことにします」

 

考察

イリノテカンによる下痢には、急性の下痢と遅発性の下痢があります。

急性の下痢はイリノテカン投与中~投与24時間に生じる下痢で、コリン作動性による腸管蠕動更新が原因とされています。

一方、遅発性の下痢はイリノテカン投与後4~10日目をピークに生じる下痢で、イリノテカンの活性代謝物SN-38による消化管粘膜の直接障害が原因とされています。

急性の下痢には抗コリン薬の効果が期待できますが、遅発期の下痢に対しては止瀉薬を使用します。

当院にはブチルスコポラミン(抗コリン薬)の採用がありますが、この患者さんは最終のイリノテカン投与が4日前であったため、遅発性の下痢に該当すると考えられます。

 

今回は私の回答は的外れではなかったと思っていますが、あとになってゆっくり考えると、ほかの答え方もあるような気がしてきますね。