ゆったん@したっぱ薬剤師

病院薬剤師の日々の戦いについてまとめています。

Lemierre(レミエール)症候群

「19歳の○○くんにヘパリンカルシウム(抗凝固薬)が処方されているけど、カルテをみてもどうして処方されているかわからなくて。量も多いし、フォローしてもらえる?」

注射室から電話がかかってきました。○○くんといえば、原因不明の発熱で緊急入院し、血液培養から菌が生えたとのことで広域抗生剤治療(メロペネムバンコマイシン)を始めたばかりの子です。

抗凝固薬が必要とは思っていなかったのですが…どういうことでしょう?

ヘパリンカルシウム

添付文書には、以下のように記載があります。

 

〇汎発性血管内血液凝固症候群の治療
血栓塞栓症(静脈血栓症心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、
四肢動脈血栓塞栓症、手術中・術後の血栓塞栓症等)の治療及
び予防

 

カルテには脳梗塞心筋梗塞など、血栓塞栓症との記載はありませんでしたので、治療目的は判断できませんでした。

また、○○くんは若年です。発熱・倦怠感もありますが、点滴台をもってトイレに行ったりと、離床はできています。血栓塞栓症の予防というわけでもなさそうです。

抗凝固薬が必要とは思えません。

 

さらに、処方量は1回5000Uを1日3回皮下注射。これは普段見ない用法なので、注射室は薬を病棟へ払い出す際に、私に情報提供をしてくれたようです。
(その場で疑義照会してもらっても良かったのですが)

 

処方意図

万が一患者の取り違えだったら大変です。処方医へ疑義照会をしてみます。

 

「○○さんのヘパリンカルシウムについて教えていただきたくて。これってどのような意図で処方されているんですか?」

先生「先ほど造影CTを撮って、Lemierre症候群と診断されたんです」

「れみえーる…?」

先生「感染から、全身性の血栓を伴う病態です。その血栓の溶解のために処方しました」

「なるほど、わかりました。ヘパリンカルシウムは添付文書での用法用量は1日2回です。1日3回でよろしいですか?」

先生「そうでしたか。では、量は検討させてもらいます。ありがとうございます」

 

電話をしながらカルテを見てみると、確かに造影検査を施行しており、そのレポートには多発血栓があること、最終的な診断名としてLemierre症候群と記載されていました。

 

Lemierre症候群

Lemierre症候群をウィキペディアで検索すると、「菌血症による感染性血栓性頚静脈炎である疾患群」と出てきます。転移性の膿瘍や塞栓を形成し、臓器不全等を引き起こす深刻な病態のようです。元来健康な若年者に発症し、死亡率が高いようです。

内頚静脈の血栓性静脈炎の症状としては頸部痛、頸部腫脹ですが、敗血症になればショック状態、肺塞栓になれば呼吸困難、そのほか様々な症状が予測されます。

多くはFusobacterium属の菌血症が原因となるようです。私はLemierre症候群という単語を初めて聞きましたが、感染症プラチナマニュアル(私が抗生剤治療についてはバイブルとしている本)でFusobacteriumをひいてみると、確かにLemierre症候群を引き起こすとの記載がありました。

レミエール症候群 - 救命救急センター 東京医科大学八王子医療センター (qq8oji.com)

 

考察

○○くんの血液培養からはFusobacteriumが検出されていました。この結果を受けて、抗生剤はスルバシリンへde-escalationされました。

レミエール症候群の治療については共通のコンセンサスがないようで、ガイドラインは見当たりませんでした。

よって、このヘパリンカルシウムの量が適切であったのか不適切であったのかは、なんともわかりません。それは医師も同じだったのか、ヘパリンカルシウムは1回5000単位を1日2回へ減らし、DOAC(経口抗凝固薬)を併用することとなりました。

血液検査で凝固能を確認しながら、画像検査で血栓のフォロー、重篤な塞栓症の兆しがないか、症状をモニタリングしながらフォローしていきたいと思います。

 

近年、抗菌薬の薬剤耐性アクションプランが推進され、不適切な抗菌薬使用についてメスが入るようになっています。

私自身も「ただの風邪に抗生剤を出すなんて!」と思っていましたが、今回の症例を見ていると、上気道感染に抗生剤を使用したくなる気持ちもわからなくもないな、と思ったりするのです(アモキシシリンのようなペニシリン系単剤では、Fusobacterium属の菌は死にませんが)。抗生剤の適正使用が進められている近年になって、forgotten diseaseと呼ばれたLemierre病の報告数が増えてきているとの文献もありました。

菌との闘いは終わりが見えませんね。